大事なコトに出会ったら、数を数えるのよ。
ひとつ
ふたつ
みっつ…
宝 箱 の 開 け 方 − girl's side
六限目から雨になった。細い糸のような雫が、天と地を繋ぐように落ちてきた。
あちこちから溜め息が漏れる。
終了のチャイムが鳴って、傘を持ってない人達は慌てて教室を出て行く。
駅までなら今出れば何とかなりそう。
「ユキ良いよ、やっとく。あたし傘あるから」
「ホント? ありがと」
あたしは黒板消しを振って見送った。
のんびり日誌を書いて(ゴミ捨ては明日にしちゃえ)、職員室に置いてきた。
誰もいない廊下を歩き、誰もいない階段を下りる。微かに雨の匂い。
途中でカバンから折り畳み傘を取り出す。
誰もいない――と思った、
昇降口。
あたしは頭の天辺に釘を刺されたみたいに立ち止まる。
並ぶ下駄箱の向こう。
1人の男子生徒。
首を少し伸ばして空を窺っている後ろ姿。
あたしは、傘を持つ左手をぎゅっと握り締める。
何で居るの。
どうしよう。
これはチャンスなの?
深呼吸して。
…いち、にぃ、さん…
「南くん」
振り返って目が合うまで、そして目が合って――どんな反応をするのか……心臓が止まりそう。
「あの、…あ、雨、降ってるね」
うわぁばかばかばか!
何言ってんのそんなの見れば解るじゃん!!
「そうだな」
南くんはそう言って少し笑った。
「皆あっという間に帰っちゃったね。あたし黒板消してて、後ろ向いたらもう誰もいないの」
「……桜井1人でやってたのか?」
「うん、ユキ傘なかったから。……あれ、南くん、部活は?」
「雨天により休み」
「そうなんだ」
って、…これくらいだったら、いつもやってる、よね? 次の試合まで間があるからかな。
「じゃ、もう帰るの?」
「…あぁ、でも、な」
彼の視線の先には、少し強くなった雨。
…持ってないのかな。傘。
「ね、良かったら、入ってかない?」
返された肯定、
笑顔。
サッカー部が休みじゃなかったのを知ったのは、翌日。